災害時の法律問題


 この度の西日本を中心とした豪雨災害について,被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。かかる豪雨災害を受け,今回は,当事務所にご相談いただいた事例や過去の実例を踏まえ,企業において問題となりうる災害時の法律問題を取り上げます。少しでもお役に立てば幸いです。

 1. 人事労務関係

Q1. 災害による営業停止の際,賃金等を支払う必要はあるか。

 この度の集中豪雨により,当社の工場が土石流に巻き込まれ,営業停止に追い込まれました。このような場合,従業員に賃金を払う必要はあるでしょうか。

A. 原則,支払う必要はない。

労務の提供がない場合,使用者は労働者に対して賃金を支払う義務はないのが原則です(ノーワーク・ノーペイの原則)。もっとも,労務提供できなかった理由が「使用者の責に帰すべき事由」による場合,賃金を支払う必要があり(民法536条2項),また,休業期間中,平均賃金の6割以上の休業手当を支払う必要もあります(労基法26条)。

本件では,工場が土石流に巻き込まれたということですので,「使用者の責に帰すべき事由」は認められず,賃金等を支払う必要はないでしょう。他方で,通勤事情の悪化等を理由に自宅待機とした場合や取引先から仕入れができなくなったことを理由とする営業停止等の場合,「使用者の責に帰すべき事由」が認められる場合がありますので,ご注意ください。

Q2. 被災により労働者が行方不明になった場合,

賃金は誰に支払うべきか。

当社の従業員が被災により行方不明となってしまったのですが,賃金は誰に払うべきでしょうか。また,亡くなられた場合はどうすべきでしょうか。

A. 原則として従前の口座に振り込むべき。

労基法24条は賃金の労働者への直接払いを定めていることから,配偶者や子供等へ支払った場合,違法・無効となりかねません。そこで,基本的にはこれまで振り込んでいた口座に振り込むべきでしょう。振込みではない場合などは供託することも考えられます。また,死亡した場合には基本的には相続人に支払うことになりますが,就業規則等の定めによる取扱いを確認しておくべきです。

Q3. 災害により休業とした後に,

年次有給休暇の申請があった場合,どうすべきか。

当社は災害により直接の被害を被ったため,10日ほど休業しました。ところが,その後,従業員から当該期間について年次有給休暇の申請がなされました。これに応ずる必要があるでしょうか。

A. 応ずる義務はない。

休業日はそもそも労働義務が課されておらず,労働義務の免除を求める年次有給休暇が成立する余地はないと考えられます。よって,労働者から休業日を年次有給休暇にしたいという申請を受けたとしても,基本的にはこれに応ずる義務はありません。

 2. 取引関係

Q1. 災害時も契約に拘束されるか。

 当社は製造業を営んでいますが,この度の災害により,原材料の入手価格が高騰してしまいました。販売先とは1年を通して定額にする旨の契約がありますが,増額要請や出荷拒否はできるでしょうか。

A. 例外的に拘束されない場合もある。

 契約は当事者双方の合意に基づくものであり,基本的には一方当事者の意思表示によってその内容を変更することはできません。もっとも,災害時においては,民法1条2項の信義則を根拠に,事情変更を主張し,増額要求や出荷拒否をすることも考えられます。ただし,裁判所が事情変更を認めることは稀ですので,詳細については弁護士等にご相談ください。

Q2. 過去に水害にあった不動産について調査告知義務はあるか。

 当社が仲介を行った土地の購入者から,「この度の豪雨災害により浸水した。数年前にも同様のことがあったようである。調査告知義務違反だ。」との申告を受けました。当社に調査告知義務はあるでしょうか。

A. 状況にもよるが,調査告知義務が否定される可能性が高い。

 宅地建物取引業者は,売買契約を媒介するに当たり,宅地建物の専門的知識を有する者として,買主に不測の損害を与えぬようその取引物件に関する重要事項について事前に調査し,それを購入者に説明すべき業務上の一般的注意義務を負っています。もっとも,水害歴に関する調査義務が問題となった東京地裁平成19年10月30日判決によれば,「媒介業者が,当該土地の水害歴について具体的な事実を認識していなかった場合においてもこの点について調査説明義務を負うというためには,これを基礎づける法令上の根拠あるいは業界の慣行などがあり,かつ,業者において情報を入手することが可能であることが必要である」とされています。

 本件でも具体的な事情次第ではありますが,会社が過去の水害を知らず,調査告知義務に関して,法令上の根拠や宅建業界の慣行がなかった場合,調査告知義務は否定されることになるでしょう。なお,上記裁判例では,会社が,行政庁において,過去の水害の記録を閲覧することが可能であったとしても,調査義務はないとされています。

Q3. 修復条項付きの契約で修復に応ずべき範囲はどこまでか。

 先日,当社は,建物を「本物件の引渡し前に天災地変により本物件が毀損したときは,本物件を修復して引渡す」という修復条項付き契約で,売却しました。ところが,契約後引渡し前に,土砂災害によりこの建物が大きく傾斜してしまいました。修復条項により,修復を行う必要があるでしょうか。

A. 基本的には,建物を再築するに等しいような

     修復に応ずる必要はない。

修復条項が設けられている場合,それに基づいた修復を行うことが原則ではあります。もっとも,修復条項が設けられた趣旨が売買の対価的なバランス維持にあると考えられる場合,売主が修復義務を負う範囲は,毀損の具体的内容・程度,修復に要する費用等を総合的に考慮して必要かつ相当な範囲に限定されるでしょう。そこで,本件でも建物を再築するに等しいような修復に応ずる必要はないと思われます。

 3. 会社の資産関係

​Q1. 災害により,土地の境界が不明確になるとともに,

第三者の自動車が流れ着いた。どのように対応すべきか。

この度の豪雨災害により,当社の所有する土地に土砂崩れが起こり,境界が不明確になってしまいました。また,その土地に誰のものか分からない自動車が流れ着いています。どのように対応すべきでしょうか。

A. 境界については,協議が難しい場合,訴訟等で解決する

必要がある。自動車については,市区町村長に撤去を

要請することが考えられる。

土地の境界が不明確になってしまった場合,まずは隣接する土地の所有者と協議すべきでしょう。協議が難しい場合には,筆界特定制度や境界確定訴訟,所有権確認訴訟等で解決せざるを得ないことになります。なお,公法上の境界については,「地震による地殻の変動に伴い広範囲にわたって地表面が水平移動した場合には,土地の筆界も相対的に移動したものとして取り扱う。なお,局部的な地表面の土砂の移動(崖崩れ等)の場合には,土地の筆界は移動しないものとして取り扱う。」

との通達が出されており(平成7年3月29日付法務省民3第2589号民事局長回答),一定の参考になります。

また,自動車など他人の動産が流れ着いた場合,これを撤去するには原則として所有者の承諾が必要です。勝手に撤去等した場合,不法行為責任を負うことがあるため,市区町村長に撤去を要請することが一案です。

Q2. 建物使用目的で借地権の設定を受けていたが,

災害により建物が倒壊した。今後どうすべきか。

当社は,他人の土地を借りて工場を所有していました(借地権の登記はなく,建物の登記のみ行っていました)。ところが,この度の災害により,工場が全壊してしまいました。今後の対応方法を教えてください。

A. 新たな建物を新築し,その建物の登記をすることが

考えられる。

借地上の建物が全壊したとしても,借地権が消滅するわけではありません。しかし,建物登記しかなかった関係で,建物が全壊したことにより,第三者対抗要件を失っていることになります。そこで,「その建物を特定するために必要な事項,その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨」を土地上に掲示し,2年以内に建物を再築のうえ,その建物について登記を行う必要があります(借地借家法10条2項)。なお,再築禁止条項等が存在する場合でも,災害を原因とする再築であれば同法17条2項等による裁判所の許可がなされることが多いと思われます。

※記事の内容は、作成当時の法令・判例等に基づいた内容です。最新法令・判例等のご確認をお願いいたします。

◆その他「労働問題(使用者側)」に関する弁護士コラムは → こちら

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