賃借人から建物についての費用を請求された場合


Q. 賃借人から建物に関する費用を請求されていますが、支払う必要はありますか?

 私はマンションの1室を収益物件として賃貸しています。その部屋の賃借人から、①ベランダの手すりの補修工事、②和式トイレを洋式トイレに改造する工事、③新たにエアコンを取り付けた工事、をしたので、かかった費用を支払ってくれと請求されました。私は、これらの工事をすることを全く知らされていなかったのですが、これらの費用を支払う必要がありますか? A. 必要費、有益費、造作の区別に応じて支払う義務の有無などが異なります。

ご相談のケースでは、賃借人が支出した費用が、民法で規定される必要費、有益費、造作のどれにあたるかで、対応が異なってきます。

 民法は、賃借人が支出した必要費については、賃借人が賃貸人に対して、直ちに請求できると定めています(民法608条1項)。必要費とは、建物の原状を維持保存し又は賃借人が約定の目的に従った使用収益をするために必要な費用をいいます。その理由は、本来、必要費を要するような修繕は賃貸人が行うべきものだからです(民法606条1項)。

 他方、民法は、賃借人が支出した有益費については、賃貸人は賃貸借終了に、その価格が現存する限り、賃貸人の選択により、その現実の支出額又は現存増価額を償還しなくてはならないとされています(民法608条2項)。有益費とは、賃貸目的物の価値を客観的に高めることになるものに支出した費用をいいます。ですから、人の趣味趣向によって価値あると言えるかどうかが異なってしまうようなものは、「客観的」に価値を高めるものとは言えないので、有益費とは認められません。  また、有益費と似たものとして借地借家法には造作買取請求権の規定もあります(借地借家法33条)。造作とは、畳や建具、空調設備のように建物から取り外すことができるもの(独立した物)です。これに対して、有益費の対象になるのは、建物と一体化して通常は取り外せないものになります。この造作については、賃貸人の同意を得たものであれば、賃貸借契約の終了時に時価を請求できることになっています。  今回のご相談の場合、①のベランダの手すりの補修工事は必要費にあたると思われますので、この費用は支払わなければいけません。②の洋式トイレへの改造工事は、現状の維持保存ではないので必要費ではなく、かつ、取り外せないものなので造作でもないため、有益費にあたるか否かが問題になります。この点は、洋式トイレが一般化している今日においては、洋式トイレへの改造は「客観的」に価値を高めるものと判断されうると思われますが、地域特性や物件の特性等の状況によって裁判所の判断が別れる可能性があります。もっとも、仮に有益費にあたるとしても、賃貸借契約の継続中は支払う必要はなく、賃貸借契約が終了した時点で、実際にかかった費用か、もしくは現存する増価額分のどちらかを賃貸人が選んで支払えばよいことになります。③のエアコンは取り外せるものなので造作にあたるところ、今回は賃貸人の同意を得ていなかったというのですから、賃貸人はその費用を支払う必要はありません。賃貸人は自らの所有物として、退去時に取り外すことになります。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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