賃借人が死亡した場合の対処方法


Q. 賃借人である独居老人が亡くなった後、賃貸人はどう対処すればよいか?

 一人住まいの高齢者にマンションの一室を貸していましたが、この方が先日、お亡くなりになりました。この方には、お子さんが何人か、いらっしゃるようです。

【質問1】賃借人が亡くなったことで、賃貸借契約は当然に終了するのでしょうか? それとも、契約を終了させるには、契約の解除が必要なのでしょうか?

【質問2】この賃借人は、家賃をかなり滞納していました。この滞納家賃を含めて、今後、誰に家賃を請求すればよいでしょうか?

【質問3】部屋の中に、この賃借人の家財道具等が置いたままになっています。これらは、こちらで処分しても大丈夫ですか? A. 相続人に対して、契約の解除、未払い家賃の請求、明渡し請求などができる。

【質問1への回答】

  建物の賃貸借契約に基づく借家権は財産的権利なので、相続人がいる場合は相続人に相続されます。したがって、相続人がいる場合、賃貸借契約は当然には終了しません。賃貸借契約を終了させるためには、契約解除の手続が必要となります。

 相続人が複数いる場合であり、かつ、遺産分割協議が成立していない場合、賃借権は相続人での共有状態になるため、契約解除をするためには、原則として相続人全員に対して、解除の通知をしなければなりません(解除権不可分の原則、民法544条、最高裁判所昭和36年12月22日判決)。

 他方、遺産分割協議が成立し、賃借権を相続する相続人が定まっている場合は、その相続人に対して解除の通知をすればよいことになります。

【質問2への回答】

 未払い家賃を請求する相手としては、(ⅰ)賃貸借契約の連帯保証人、(ⅱ)賃借人の相続人、が考えられます。

 まず、(ⅰ)連帯保証人に対して請求する場合です。連帯保証人が契約書に署名押印するのは、賃貸借契約を最初に締結する時だけの場合がほとんどです。その場合、契約更新後に発生した未払い家賃について、連帯保証人は責任を負わないようにも思えます。しかし、最高裁判所は、契約書に「当初の契約期間のみ保証する」とか「契約更新後は保証責任を負わない」などと明記してある場合など、〈特段の事情〉がある場合以外は、契約更新後に発生した未払い家賃についても、連帯保証人に請求することができる、としています(最高裁平成9年11月13日判決)。

 もっとも、賃借人が家賃を滞納しているのに賃貸人が放置して、そのために未払い家賃が多額となったような場合は、賃貸人による怠慢の責任を全て保証人に請求するのは〈権利の濫用〉であるとして、未払い家賃の全額の請求は認められない可能性があるので、注意が必要です(広島地裁福山支部平成20年2月21日判決参照)。

 次に、(ⅱ)賃借人の相続人に対して請求する場合です。

 既に発生していた未払い家賃(金銭債務)については、相続人が法定相続分に応じて当然に承継することになっています。たとえば、未払い家賃の額が30万円で、相続人がA、B、Cの子ども3人の場合、A、B、Cがそれぞれ10万円ずつ家賃債務を承継することになるので、賃貸人は、それぞれに対して10万円ずつ請求しなければなりません。

 これに対して、賃借人が死亡した後に発生した家賃のうち、遺産分割協議が成立するまでのものは、共同相続人の全員が負担する不可分債務となります。たとえば、賃借人の死亡後に発生した家賃の額が15万円で、相続人がA、B、Cの3人の場合、賃貸人はA、B、Cいずれに対しても、15万円全額を請求することができ、誰かから全額回収できればよいことになります。

 他方、遺産分割協議が成立して賃借権を相続する者が定まった後は、その者のみが支払義務を負うことになります。

【質問3への回答】

 そもそも、賃借人が死亡しただけでは原則として賃貸借契約は終了しませんから、賃貸人は建物の明渡しを求めることができません。したがって、賃貸借契約が存続している間は、部屋の中にある家具の処分はできません。

 では、契約解除がなされて賃貸借契約が終了した場合はどうでしょうか?

 この点、たとえ賃貸借契約が終了したとしても、部屋の中にある賃借人の家財道具は、遺産分割協議が整うまでは相続人全員による共有物ですし、遺産分割協議が成立して家財道具の相続人が定まればその相続人の所有物になりますから、いずれにせよ、賃貸人が勝手に処分することはできません。

 もっとも、賃貸借契約が終了した時点で賃借権を相続していた相続人、すなわち遺産分割協議の前であれば相続人全員(賃借権の共有)、遺産分割協議の後であれば賃借権を相続た者は、賃貸借契約の終了に基づく建物明渡義務を負うことになります。そこで賃貸人は、この建物明渡義務を負う者に対して、家財道具の搬出等を求めることができます。

 なお、建物明渡義務を負う者と、家財道具の相続人とが異なる場合、賃貸人は家財道具の相続人に対しても、家財道具の搬出等を求めることができます(物権的妨害排除請求権)。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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